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岡山地方裁判所 昭和62年(ワ)132号 判決 1989年5月29日

原告

川崎正行

ほか三名

被告

平野勇人

ほか一名

主文

一  被告らは、各自、原告川崎正行に対し八六二四万七五一一円、原告川崎弘子に対し二七〇万円、原告川崎真理、同川崎良徳に対し各八八万円及びこれらに対する昭和五九年一〇月九日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らの被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告らの、その余を被告らの各負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自、原告川崎正行(以下「原告正行」という。)に対し一億三九〇〇万円、同川崎弘子(以下「原告弘子」という。)に対し五五〇万円、同川崎真理(以下「原告真理」という。)、同川崎良徳(以下「原告良徳」という。)に対し各三〇〇万円及びこれらに対する昭和五九年一〇月九日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五九年一〇月九日午前八時四〇分ごろ

(二) 場所 岡山市奥田本町三番一号先市道交差点

(三) 加害車 普通乗用自動車(岡五七め三二〇〇)

右運転者 被告平野勇人(以下「被告平野」という。)

(四) 被害車 原動機付自転車(岡山市え八一五六)

右運転者 原告正行

(五) 事故の態様 原告正行運転の被害車が事故現場を青信号に従つて直進中、右折してきた被告平野運転の加害車に衝突された。

2  責任原因

(一) 被告平野

被告平野は、交差点において右折する場合、右折地点において一時停止して直進者の動勢に注意し、その進行を妨害してはならないにもかかわらず、一時停止を怠り、かつ、自車右側方の確認を怠り、漫然進行した過失により本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条の不法行為責任を負う。

また、同被告は、加害車の保有者であり、これを自己の運行の用に供していたものであるから、自賠法三条に基づく損害賠償責任を負う。

(二) 被告有限会社平野電気商会(以下「被告会社」という。)

被告会社は、被告平野の使用者であるところ、本件事故は被告平野の業務執行中に発生したものであるから、民法七一五条の使用者責任を負う。

3  原告正行の損害

原告正行は、本件事故により頸髄損傷、右大腿骨骨折、右下腿開放骨折の傷害を受け、川崎医科大学附属川崎病院(岡山市中山下二丁目所在)に事故当日の昭和五九年一〇月九日から昭和六二年三月二一日まで八九四日間入院して治療を受けたが、その間昭和六〇年四月九日、後遺障害等級一級に該当する第五頸髄以下の完全麻痺等の後遺障害を残して症状が固定した。

(一) 治療費関係 四六九万八一五〇円

(1) 治療費 三八八万二六五〇円

ただし、被告らにおいて川崎病院へ支払済である。

(2) 差額ベッド代 八一万五五〇〇円

昭和六一年八月一日から昭和六二年三月二一日まで一日当たり三五〇〇円の割合による二三三日分

(二) 入院中の付添費(症状固定日まで) 一二七万五八四五円

(1) 職業付添婦による付添費(昭和五九年一〇月一〇日から同年一二月一六日まで五七日間) 四七万〇八四五円

(2) 原告弘子による付添費(一日当たり五〇〇〇円の割合による一六一日間) 八〇万五〇〇〇円

原告弘子は本件事故直後の二日間働いただけで、それ以外は毎日付き添つた。

(三) 将来の付添費(原告弘子による付添) 五四七三万八五五九円

昭和六〇年四月九日(症状固定日)以降の平均余命年数三九年間の現価を、昭和六一年賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計高校卒女子労働者の三〇ないし三四歳の年平均給与を基準として算定する(原告弘子は昭和二六年一二月二三日生)。

二五六万八八〇〇円×二一・三〇九(新ホフマン係数)=五四七三万八五五九円

(四) 入院中の雑費 八九万四〇〇〇円

昭和五九年一〇月九日(入院日)から昭和六二年三月二一日(退院日)まで一日当たり一〇〇〇円の割合による八九四日分

(五) 将来の雑費 七五二万八一二五円

昭和六二年三月二一日(退院日)以降の平均余命年数三七年間につき一日当たり一〇〇〇円の割合による排尿・排便後の清浄、消毒・褥瘡防止のため等に要する費用

一〇〇〇円×三六五日×二〇・六二五(新ホフマン係数)=七五二万八一二五円

(六) 駐車料 六一万九四〇〇円

原告正行には、長女の原告真理(昭和五〇年九月二日生)と長男の原告良徳(昭和五三年九月一三日生)の二人の子供がある。原告弘子は、原告正行の介護をするとともに、家に帰り二人の子供の世話をする必要があつた。そのため、昭和五九年一〇月から昭和六二年八月二六日までの間、川崎病院と家の往復に自家用車は必須であつた。駐車場は同病院の南隣を利用した。なお、被告らは駐車場を自ら支払うことに同意していた。

(七) 器具購入費 三二二五万〇三〇〇円

原告正行は、前記の後遺障害のため、生涯、車椅子及び車椅子用のステップメイト並びに膝装具(右下腿骨の骨髄炎のため右下腿骨の太い骨がつながつていないのでこれを支える器具、川崎病院向畑医師の指示により購入)、パートナーが生活必需品となつた。車椅子は少なくとも室内用と室外用の二台が必要である。一台の価格は室外用電動車椅子五九万六八五〇円(一台目の代金は被告らが昭和六一年三月二九日に支払済)室内用車椅子七万四〇〇〇円、車椅子用ステップメイト五八万五〇〇〇円、膝装具一万八〇〇〇円(一個目の代金は被告らが昭和六一年三月二九日に支払済)、パートナー本体五八万円である。その他、身障者用ベッド、エアーマツトも必需品であり、手首・指の握力をつけるための訓練器具エンゲン電動スプリントEPPO、エンゲンフレクサースプリントRO四〇〇が必需品である。詳細は別紙器具一覧表のとおりである。

(八) 住宅改造費 七三〇万五〇〇〇円

原告正行は、車椅子による生活に支障がないよう自宅の台所、廊下、浴室等を改造する必要があり、その費用は合計八四七万円(<1>天井にレールを取り付けリフトに乗つて移動できる身体障害者用トランスフアーシステム(パートナー)の設置代五五二万九五五〇円、<2>室内から車椅子に乗つたまま室外に出るための車椅子用ステツプメイトの設置代九七万円、<3>右パートナー使用による便器移設代五万二〇〇〇円、<4>特殊浴槽設置代七一万九五〇〇円、<5>その他右<1>ないし<4>に伴う仮設工事等関連諸経費一一九万八九五〇円)となる。ただし、ステツプメイトの代金五八万五〇〇〇円とパートナー本体の代金五八万円は器具購入費に計上するので、結局、住宅改造費は合計七三〇万五〇〇〇円となる。

(九) 車両購入費 一三〇三万八四〇〇円

原告正行の前記の後遺障害から考えて、同人の病院への通院等、日常生活において身体障害車用車は必要不可欠である。ただし、同人は運転することができないので、原告弘子に運転してもらうことになる。

昭和六〇年四月九日(症状固定日)から平均余命年数三九年間に、少なくとも六台の右乗用車が必要である(耐用年数は税法上六年)。その費用は、一台目は一六〇万三四〇〇円であるが、二台目から六台目までは一台当たり二二八万七〇〇〇円であるから、合計一三〇三万八四〇〇円となる。

(一〇) 休業損害 二七五万六六四〇円

原告正行は、本件事故当時、日電ホームサービス(以下「日電ホーム」という。)の代理店を経営していた。同原告の事故前半年間の収入二二〇万五四〇〇円(一二八日)であるから、一日当たり一万七二二九円となる。昭和五九年一〇月九日(事故日)から昭和六〇年四月九日(症状固定日)までの一八三日間の休業損害は、二三日間休むとして、二七五万六六四〇円となる。

なお、代理店とはいえ、工事道具、材料等は全て会社支給であり、経費としては原告正行所有の原付二輪のガソリン代くらいであり、ほとんどかからない。 一万七二二九円×一六〇日=二七五万六六四〇円

(一一) 逸失利益 一億〇一〇四万五一四七円

原告正行は、本件事故当時、日電ホームの代理店を経営していたが、これは調理士としての勤務先が見つかるまでのアルバイトにすぎない。同原告は、中学卒業後、当時日本でも有数の調理士であつた中川荘太郎の下で約一〇年間本格的な修行を積み、昭和五〇年に岡山に帰つてからも一〇年間調理士長としての経験を積んでいた。同原告は、本件事故がなければ小料理屋を開業し、一流の調理士として生活を送る予定であつたところ、本件事故のため労働能力を一〇〇パーセント喪失した。

そこで、同原告の逸失利益は、昭和六一年賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計男子労働者の学歴計三五ないし三九歳の年平均給与である四七四万一九〇〇円を基礎にして算出すべきである。

ところで、調理士は職人の世界であり、元気でさえあれば生涯働くことが可能であり、定年はない。かえつて年季を積む方が歓迎される。昭和六〇年簡易生命表によると、症状固定時三七歳の原告正行の平均余命年数は三九年であるから、同原告の症状固定時における逸失利益の現価は、次のとおり一億〇一〇四万五一四七円となる。

四七四万一九〇〇円×二一・三〇九(新ホフマン係数)=一億〇一〇四万五一四七円

(一二) 慰謝料 二四〇〇万円

(1) 入院に対する慰謝料 四〇〇万円

(2) 後遺症に対する慰謝料 二〇〇〇万円

(一三) 損害の填補 三二六二万三九八〇円

(1) 任意保険(日本火災海上保険株式会社)

三三七万五〇〇〇円+九二四万八九八〇円=一二六二万三九八〇円

(2) 自賠責保険 二〇〇〇万円

(一四) 弁護士費用 七〇〇万円

4  原告弘子、同真理、同良徳の損害

(一) 慰謝料

(1) 原告弘子 五〇〇万円

(2) 原告真理、同良徳 各二七五万円

原告弘子は、原告正行の妻として今後三七年間にわたつて、植物人間と同様になつた夫の看病に人生を費やすことになり、また、原告真理、同良徳の二人の子供は寝たきりの父の傍らで成長していかざるを得ず、健康な父と共に人生を歩む楽しみを奪われてしまつた。慰謝料は原告弘子につき五〇〇万円、同真理、同良徳につき各二七五万円が相当である。

(二) 弁護士費用

(1) 原告弘子 五〇万円

(2) 原告真理、同良徳 各二五万円

よつて、被告らは、各自、原告正行に対し内金一億三九〇〇万円、同弘子に対し五五〇万円、同真理、同良徳に対し各三〇〇万円及びこれらに対する本件事故の日である昭和五九年一〇月九日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、同2(一)、(二)の事実は認める。

2  同3の冒頭の事実は認める。

3  同3(一)(1)の事実は認める。

4  同(2)の事実のうち、金額の点は認めるが、相当性は争う。

5  同3(二)(1)の事実は認める。

6  同(2)の事実のうち、付添日が一六一日であることは不知であり、職業付添婦との五七日間の重複付添の必要性及び日額五〇〇〇円の相当性を争う。近親者付添費は日額三〇〇〇円が相当である。

7  同8(三)の事実は争う。将来の付添費の相当額は日額四〇〇〇円を上回ることはなく、安易な賃金センサスの適用は失当である。したがつて、将来の付添費はせいぜい二四八四万四八二〇円(四〇〇〇円×三六五日×ライプニツツ係数一七・〇一七)である。

8  同3(四)の事実のうち、入院期間の点は認めるが、日額一〇〇〇円の相当性は争う。

9  同3(五)の事実は争う。不確定な要素が多いので、賠償理論として認め難いと考えるが、仮に認めるとしても控え目であるべきで、中間利息の控除はライプニツツ式によるべきである。

10  同3(六)の事実のうち、駐車料金の内容は知らない。被告らと支払約束があつたとの点は否認する。

11  同3(七)の事実のうち、原告正行が別紙器具一覧表記載の室外用電動椅子一台(五九万六八五〇円)を既に購入していることは認めるが、その余の器具の購入済の事実及び購入予定は知らないし、これらが相当因果関係の範囲内であることは争う。裁判例によつても器具購入費として肯認されているのは、車椅子程度の歩行補助器具、補装具であり、それも医師の指示によつて購入したことが損害として肯認される要件となつている。原告の主張でも膝装具のみが右に該当するものである。その他のものについては、認められるべき慰謝料によつて(補完性の範囲内として)考慮されていると理解すべきものである。

12  同3(八)の事実のうち、改造費の金額は知らないし、これが本件事故と相当因果関係にある損害であることは争う。

13  同3(九)の事実のうち、車両の金額は知らないし、これが本件事故と相当因果関係にある損害であることは争う。事故と相当因果関係がある器具購入費として肯認されるのは、介護のために必要不可欠なものや歩行補助器具に限定されるべきである。本人以外にも利用される(共益部分のある)乗用車は認め難い。

14  同3(一〇)の事実のうち、原告正行が本件事故前に日電ホームサービスの代理店を経営していたことは認めるが、これを休業損害の資料とすることは、内容的(トイレフレフアンや便槽のマンホールの蓋の訪問販売であるが、トイレフアンの訪問販売については、別件ではあるが、関係者が詐欺まがいの商法として指摘されたこともあるように問題がある。)のみならず、勤務していた期間が短かく永続性がないなど、多大の問題があり許されない。

結局、原告正行の安定した収入は、最高でも月収三〇万程度(日収一万円)と認められるから、休業損害は一六〇万円程度というべきである。

15  同3(一一)の事実のうち、賃金センサスを基準とし、稼働期間を平均余命の三九年間とすることについては争う。賃金センサスは安易に適用すべきでなく、万一適用するのであれば、より収入実態に近い原告正行の居住地域である岡山県における男子労働者(三五ないし三九歳)の平均賃金(第四巻第一表岡山県産業計企業規模計)を適用すべきであろう。しかし、原告正行については、統計資料によることなく、前述のとおり、日収一万円を単位とすべきである。また、稼働期間については一般的通則である六七歳までとすべきである。

したがつて、原告正行の逸失利益は、最大限五六一〇万七八〇〇円(一万円×三六五日×ライプニツツ係数一五・三七二)となる。

16  同3(一二)の事実は争う。

17  同3(一三)の事実は争う。

18  同3(一四)の事実は争う。

19  同4(一)、(二)の事実は争う。仮に原告正行以外の各原告に損害を認めるならば、右損害についても後記過失相殺又は過失を斟酌すべきである。

三  抗弁(過失相殺)

本件事故の発生については、原告正行にも前方不注視の過失があつたことが明らかであり、その過失割合は少なくとも三割というべきであるから、損害額から相殺されるべきである。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は否認する。

原告正行は、前車と一〇メートルと離れずに流れに従つて直進していたのであり、仮に時速三五ないし四〇キロメートルで走つていたとしても、交差点内でスピードを出し過ぎていたから過失があるということにはならないし、当然に右折車よりも優先権を有している。一方、被告平野は、原告正行の前車のみを見て、後続車がないものと誤信して右折したものであつて、同原告において同被告を避けるべき方途はなかつたのである。原告正行は無過失である。

第三証拠

本件記録中の証拠に関する目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1(事故の発生)、同2(一)、(二)(責任原因)の事実は、当事者間に争いがない。

二  請求原因3(原告正行の損害)及び抗弁(過失相殺)について判断する。

1  同3の冒頭(傷害、入院、症状固定、後遺障害とその等級)の事実は、当事者間に争いがない。そして、成立に争いのない甲第一、第二、第一〇一、第一一一号証及び原告正行本人の供述によれば、本件事故による後遺障害(第五頸髄以下の完全麻痺等)のため、日常生活に全介助を必要とすること(右下腿骨髄炎のため骨が未癒合の状態で、骨折防止のため膝装具を装着している。なお、両前腕運動麻痺のため指の使用はできないが、機能訓練の結果、現在では自助具を用いて大体自ら飲食をすることができる。)が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

2  そこで、各損害の数額につき順次検討する。

(一)  治療費関係 四二九万〇四〇〇円

(1) 治療費 三八八万二六五〇円

原告正行が入院中に治療費として合計三八八万二六五〇円を要し、被告らがこれを既に支払済であることについては、当事者間に争いがない。

(2) 差額ベツド代 四〇万七七五〇円

原告正行主張の差額ベツド代は、症状固定日である昭和六〇年四月九日より後の分であり、かつ、特に個室の利用につき医師の指示によることについての主張立証は存しないので、その全額を被告らに負担させるのは相当でないが、前途の後遺障害の内容程度に照らせば、その半額である四〇万七七五〇円を負担させるのが相当である。

(二)  入院中の付添費 八三万八三四五円

(1) 職業付添婦による付添費 四七万〇八四五円

原告正行が入院中に職業付添婦による付添を受け、合計四七万〇八四五円を支出したことは、当事者間に争いがない。

(2) 原告弘子による付添費 三六万七五〇〇円

原告弘子本人の供述及び弁論の全趣旨によれば、原告正行の入院中、妻である原告弘子が本件事故直後の昭和五九年一〇月九日、一〇日の二日間を除き、その後一六一日間、継続して原告正行を付添い看護したことが認められるところ、そのうち右(1)の職業付添婦と重複する五六日間は失当というべきであるから、その余の一〇五日間につき日額三五〇〇円の割合による合計三六万七五〇〇円を相当として認めるのが相当である。

(三)  将来の付添費 二四八四万四八二〇円

前途の原告正行の後遺障害の内容程度に照らせば、同原告は、症状固定日である昭和六〇年四月九日以降の平均余命年数三九年間(当時の年齢三七歳に応じたもの)にわたり、付添看護を必要とすることが明らかである。その費用は、日額四〇〇〇円を基準とし、ライプニツツ式により年五分の割合による中間利息を控除して現価を求めると、合計二四八四万四八二〇円(四〇〇〇×三六五×一七・〇一七〇)となる。

なお、原告正行は、賃金センサスを算定基準としたうえで、ホフマン式の適用を主張するが、当裁判所は右主張の合理的根拠を見出し難いので、これを採用しない。

(四)  入院中の雑費 八九万四〇〇〇円

原告正行が昭和五九年一〇月九日から昭和六二年三月二一日まで八九四日間入院治療を受けたことは、前途のとおりであるところ、その間、諸雑費を要したことは容易に推認することができる。その費用は、日額一〇〇〇円をもつて算出するのが相当であるから、合計八九万四〇〇〇円となる。

(五)  将来の雑費 三〇四万九七九四円

前述の原告正行の後遺障害の内容程度に照らせば、同原告は、退院日である昭和六二年三月二一日以降の平均余命年数三七年間(当時の年齢三九歳に応じたもの)にわたり諸雑費を必要とすると認められる。その費用は、不確定要素を考慮して日額五〇〇円を基準とし、ライプニッツ式により年五分の割合による中間利息を控除して現価を求めると、合計三〇四万九七九四円(五〇〇×三六五×一六・七一一二)となる。

(六)  駐車料 四八万一六〇〇円

原告正行は、被告らとの間で駐車料を被告らが負担する旨の合意があつた、と主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

しかし、成立に争いのない甲第一七号証の一ないし九、第三六、第八七号証、原告弘子本人の供述及び弁論の全趣旨によれば、原告弘子は、昭和五九年一〇月から昭和六二年八月までの間、川崎病院における原告正行の付添看護ないし薬の受取りなどのため乗用車を利用し、駐車料として合計四八万一六〇〇円を要したことが認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。これによれば、右駐車料は本件事故による損害と認めるのが相当である。そして、原告正行主張の駐車料との差額一三万七八〇〇円についてはこれを認めるに足りる証拠はない。

(七)  器具購入費 七四万〇八五〇円

別紙器具一覧表のうち、番号13(膝装具)については、これを原告正行が川崎病院(向畑医師)の指示により購入したことにつき当事者間に争いがなく、これに前認定の事実(原告正行の後遺症状)と原告正行、同弘子各本人の供述及び弁論の全趣旨を総合すれば、右器具は、原告正行の右下腿が骨髄炎のため骨が未癒合の状態であるところから、骨折防止に有効であること、一台の価格は一万八〇〇〇円で、将来五年毎に買替を必要とするので、余命年数の間に更に七個、合計金額一四万四〇〇〇円(八個分)となることが認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。したがつて、右一四万四〇〇〇円は本件事故による損害と認められる。

番号1(室外用電動車椅子)、9(室内用車椅子)については、原告正行が車椅子自体を必要とすることは認められるけれども、原告弘子本人の供述によれば、原告正行の希望する物より機能が劣るものの、既に岡山市から支給を受けていることが認められ(身体障害者福祉法二〇条参照)、その数年毎の更新(支給)の点については当裁判所に顕著である。したがつて、車椅子については自ら購入する必要がないように一応保障されているのであるから、それ以上特別に購入したとしても、任意の支出として本件事故と相当因果関係があるとはいえない。ただし、番号1の室外用に限つては、成立に争いのない甲第一一一号証(診断書)によれば、前記担当医においてその必要を認めており(もつとも、前述の膝装具とはその必要の程度を異にする。)、これに応じて、被告ら(任意保険関係)が既にその代金五九万六八五〇円を支払つていることが弁論の全趣旨から窺われるので、前述の趣旨から、その買替までは認め難いものの、既に購入済の一台分についてのみ認めることとする。

番号8(車)及び11(パートナー)、12(ステツプメイト)については、いずれもこれを本件事故による損害と認めるのは困難であるが、そのうち前者については後記(九)車両購入費の項と重複しているので、同所で、後者については後記(八)住宅改造費の項で、それぞれ説示することとする。

同一覧表記載のその余の器具については、いずれも本件事故と相当因果関係にある損害とはいえない。

なお、原告正行にとつて、以上において損害とは認めなかつた器具についてもこれらを必要とする事情は十分に理解できるので、慰謝料の算定において斟酌するのが相当である。

(八)  住宅改造費

前述の原告正行の後遺障害の内容程度に照らせば、住宅改造費に関する同原告の主張は十分に理解することができるけれども、そのうち、パートナーの設置(<1>、<3>及び<5>)については、前記(七)の器具購入費に計上されている本体部分を含め、現時点において、これをそのまま受け入れるに十分な社会一般の理解が熟しているとは考え難い。また、ステツプメイト(<2>及び<5>)と特殊浴槽の各設置(<4>及び<5>)については、前者につき前記(七)の器具購入費に計上されている本体部分を含め、成立に争いのない甲第五三、第七二号証、原告弘子本人の供述及び弁論の全趣旨によれば、現在の住宅は、従来居住していた県営アパートが階段があるなど原告正行の生活上の不便のため、本件事故後の昭和六〇年三月に新築(代金約二〇〇〇万円)したものの、現実に居住してみたら、例えば玄関先のスロープが急であるとか、浴槽を埋込式にしているなど、種々不便な点がでてきたことが認められるところ、これらはいずれも新築の時点で十分な配慮をすれば、二重の出費を回避することができたはずであつて、その費用の全部を被告らに求めることは過大な要求といわざるをえない。

もつとも、これら住宅の改造費については、原告正行主張の高価な装置に代わる経済的な装置の費用とか、又は、現在の住宅の新築に要した費用のうち特に同原告の車椅子の生活に適するよう配慮したための余分な出費(家族の共益部分を除く。)などを損害の内容として検討する余地がないではないが、本件においては、証拠上これを確定することができない。したがつて、原告正行主張の全額につき失当といわざるをえない。

(九)  車両購入費

前述の原告正行の後遺障害の内容程度に照らせば、同原告が身体障害者用乗用車を必要とする事情については十分に理解することができるけれども、それが社会生活上必要不可欠であるとまでは認め難く、また、右乗用車の利用により本人以外の家族の受ける利益をも考え合わせれば、右乗用車の購入費が本件事故と相当因果関係のある損害とはいえず、失当である。なお、前出の器具購入費の場合と同様、これを必要とする事情を慰謝料の算定に当たつて斟酌するのが相当である。

(一〇)  休業損害 一九二万九六〇〇円

原告正行が、本件事故当時、日電ホームの代理店を経営していたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第三号証によれば、事故前半年間の収入は合計二二〇万五四〇〇円(一二八日)であることが認められるから、一日当たり一万七二二九円(必要経費の点は後述する。)となる。

ところで、原告正行本人の供述によれば、同原告は、後述のとおり、もともと調理士の資格を有し、右代理店は右資格を生かした適当な勤務先が見つかるまでのいわば半年足らずの臨時的アルバイトに過ぎなかつたこと、その仕事の内容はトイレフアンの訪問販売(被告らは、これが問題のある商法であつたかに主張するが、原告正行につきこれを証するに足りる確たる証拠はない。)であつたことが認められる。これらによれば、右代理店の継続性、収入の安定性及び必要経費の見地からみて、右日収一万七二二九円をそのまま休業損害の算定基準とするには疑問があるので、結局、その七割に当たる一万二〇六〇円をもつて相当と認める。

そうすると、本件事故当日である昭和五九年一〇月九日から症状固定日である昭和六〇年四月九日までの一八三日間のうち原告正行主張の一六〇日に相当する休業損害は、合計一九二万九六〇〇円となる。

(一一)  逸失利益 六九三四万三三五九円

成立に争いのない甲第四ないし第六号証、原告正行本人の供述により成立を認める甲第六〇、第六一号証、原告正行、同弘子各本人の供述によれば、原告正行は、昭和三七年に中学卒業後、調理士を目指して大阪方面で約一〇年間にわたり本格的な修行を積んで、昭和五〇年ごろ岡山に帰り、その後調理士(長)として割烹「いろは」等の数軒の料理屋を転々とした後、昭和五七年ごろから約二年間にわたり自ら仕出し料理屋「金太郎」を経営したが失敗し、昭和五九年四月以降は前記日電ホームの代理店を経営するようになつたこと、右「いろは」時代の月収は約三五万円であり、右「金太郎」時代には妻の原告弘子に生活費として月額約二八万円を渡していたこと、原告正行は現在も社団法人日本全職業調理士協会(岡山支部)に加盟し、同協会等から各種の表彰状や感謝状を受けるなど、調理士としての技能には定評があり、同原告自身も四〇歳過位を目標に割烹店を経営する積りであつたことが認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。これらによれば、原告正行の安定かつ継続的な現実の収入額を把握することは必ずしも容易ではない反面、全国の平均賃金を得る蓋然性を全く否定することもできないというべきである。

そこで、逸失利益の算定については、昭和五九年賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計男子労働者の学歴計三五ないし三九歳の年間平均賃金である四五一万〇九〇〇円を基準とするのが相当である。

そうすると、原告正行の労働能力喪失率を一〇〇パーセント、稼働期間を一般的通則に従い六七歳までの三〇年間とし、逸失利益の本件事故当時における現価をライプニツツ式により算出すれば、その額は合計六九三四万三三五九円(四五一万〇九〇〇×一五・三七二四)となる。

なお、原告正行は中間利息の控除につきホフマン式、稼働期間につき平均余命の各適用を主張し、また、被告らは賃金センサスにつき岡山県のそれの適用を主張するが、当裁判所はいずれも合理的根拠を見出し難いので、これを採用しない。

(一二)  慰謝料 一九六〇万円

前認定の傷害の部位程度、入院期間、後遺障害の内容程度、過失の割合その他本件に顕れた諸般の事情を総合考察すれば、本件事故によつて原告正行が被つた精神的苦痛に対する慰謝料は、一九八〇万円(入院につき一六〇万円、後遺症につき一八〇〇万円)と認めるのが相当である。

(一三)  損害の填補

原告正行が本件事故につき合計三二六二万三九八〇円の填補を受けたことは、同原告の自認するところである。

そこで、前記(一)ないし(一一)の合計一億〇六四一万二七六八円につき原告正行の過失一割を考慮した九五七七万一四九一円に、前記(一二)の一九六〇万円を加えた一億一五三七万一四九一円から右填補額を控除すれば、未填補額は八二七四万七五一一円となる。

(一四)  弁護士費用

弁論の全趣旨によると、原告正行は、本訴の提起、追行を原告ら訴訟代理人に委任し、相当額の弁護士費用の支払を約しているものと認められるところ、本件事案の性質、審理の経過、認容額等に照らすと、同原告が本件事故による損害として被告らに賠償を求め得る弁護士費用の額は、三五〇万円を下らないと認めるのが相当である。

8 抗弁(過失相殺)について判断する。

当事者間に争いのない請求原因1(事故の発生)の事実と、成立に争いのない乙第一、第二、第四、第六、第九(一部)号証及び原告正行本人の供述(一部)を総合すれば、被告平野は加害車(四輪)を運転して事故現場の交差点を右折するに際し、右方の数台の対向直進車(四輪)と交差点出口の横断歩道上の歩行者の動静にのみ気を取られ、左方の動静に対する注意を怠つたまま、漫然と最後尾の対向直進車(四輪)と交差しようとしたため、右交差直進車に追従する被害車の発見が遅れ、本件の衝突事故が発生したこと、一方、原告正行は被害車(原付二輪)を運転し、同交差点を毎時三五ないし四〇キロメートルの速度で前車の右交差直進車に追従して直進するに際し、前方注視を怠つたまま、漫然と右交差直進車に追従したため、同事故が発生したことが認められ、前掲乙第九号証(被告平野が交差点中央付近で一時停止したと供述する部分)及び原告正行本人の供述(殊に前掲乙第四号証中の毎時三五ないし四〇キロメートルの速度を、これより最低一〇キロメートル減、と変更する部分)中右認定に反する部分は措信し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば、被告平野に重大な過失があることは明らかであるが、一方、原告正行においても、交差点内を通行するときは、右折車等の動静に注意し、できる限り安全な速度と方法で進行する義務があるから、結局、同原告に少なくとも一割の過失を肯定し、賠償額の算定につき斟酌すべきである。

三  請求原因4(原告弘子、同真理、同良徳の損害)について判断する。

1  慰謝料 原告弘子 二五〇万円

原告真理、同良徳各 八〇万円

前認定の事実及び原告弘子本人の供述によれば、原告正行の妻である原告弘子、二人の子供である原告真理(昭和五〇年九月二日生)、同良徳(昭和五三年九月一三日生)は、いずれも、本件事故により原告正行が生涯車椅子の生活を余儀なくされる重度身体障害者となり、その死亡にも比肩すべき精神的苦痛を被つたことは推測に難くなく、殊に原告弘子は生涯原告正行のため種々の犠牲を強いられることとなつたこと、その他原告正行の過失を含め本件に顕れた諸般の事情を斟酌すれば、その慰謝料は原告弘子につき二五〇万円、原告真理、同良徳につき各八〇万円と認めるのが相当である。

2  弁護士費用 原告弘子 二〇万円

原告真理、同良徳各 八万円

原告正行の場合と同様の理由により、原告弘子につき二〇万円、原告真理、同良徳につき各八万円と認めるのが相当である。

四  結論

以上の次第であるから、原告らの本訴請求は、被告ら各自に対し、原告正行につき八六二四万七五一一円、同弘子につき二七〇万円、同真理、同良徳につき各八八万円及びこれらに対する本件事故の日である昭和五九年一〇月九日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、その限度でこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 白石嘉孝)

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